
なぜお金持ちは「友人を選べ」と諭すのか?
前回は、社会学者のマックス・ヴェーバーを例に、お金に淡泊なほど経済的に有利になるという、お金が持つ不思議な特質について解説しました。今回のテーマも社会学に関するものです。
ゲマインシャフトとゲゼルシャフト
よい人生を送るためには、適切な人物と友人になる必要があります。いくら自分がしっかりしていても、ダメな人ばかりに囲まれていては、その人たちから悪い影響を受けてしまいます。
この話はお金についてもまったく同じことが言えるでしょう。経済的に成功した人は、口を揃えて「成功したければ友人を選ぶべき」と述べているのですが、皆が言っているのであれば、これはかなり本質的なテーマと思ってよいはずです。
成功したければ、成功した人と付き合えというのは、感覚的にはよく分かると思いますが、なぜそうなのかと聞かれると少し困ってしまいます。
こうした仕組みについて理解するヒントを与えてくれるのが、ゲマインシャフトとゲゼルシャフトという社会学的な概念です。
ゲマインシャフトは、一般に共同体組織と呼ばれ、地縁血縁や人間関係によって自然に結びついた集団のことを指します。日本の、いわゆるムラ社会は典型的なゲマインシャフトといってよいでしょう。
一方、ゲゼルシャフトはこれとは正反対で、目的合理的に、そして人為的に作られた組織を指します。グローバル企業はまさにゲゼルシャフトの典型です。
ゲマインシャフトは、自然発生的なものですから、組織の意思決定もあまり合理的には行われません。情緒が優先されますから、場合によっては、全体としては不利益であっても、多数派の人が納得出来る形で物事が決まります。日本社会における「和の精神」はまさにゲマインシャフト的な意思決定方法です。
一方、ゲゼルシャフトにおける意思決定は全く異なります。
ゲゼルシャフトの集団では、契約関係や合理性が重視されます。組織の中で明確に役割分担が成立し、その役割に応じて、適切に対価が支払われます。ルールがしっかりと決められていますから、仮に不満を持つ人がいても、合理的に決断が下されます。

人との距離の取り方が重要
ゲゼルシャフトでは、ルールをベースに物事が動きますから、非合理的な動きは排除されます。人種や性別などに関係なく、有能な人物が登用されますから、組織が得られる利益も大きくなります。
一方、ゲマインシャフトはそうはいきません。濃密な人間関係がありますから、疎外感を味わうことはありませんが、価値観の多様性は認められません。結果として、変化を頑(かたく)なに拒んだり、時に暴力的な支配が行われたりします。
こうしたゲマインシャフトは、近代化によって消滅したと思われていますが、実はそうでもありません。日本のサラリーマン社会は多分にゲマインシャフト的な要素を残しており、これが最悪の形で顕在化したのが、いわゆるブラック企業ということになるでしょう。さらに今でも一部の地域では、都市部から移住した住民を徹底的に排除する、村八分のような事態が発生しています。
こうしたコミュニティーに入ってしまうと、いくら自分で自分を律して、合理的に行動しようとしても、周囲がそれを許容しません。結果として、自由な経済活動ができないという状況に陥ってしまいます。
少しドライで味気ないかもしれませんが、契約に基づいて、合理的に振る舞う人たちで構成されるコミュニティーに所属する方が圧倒的に有利なのは間違いありません。こうした状況を分かりやすい言葉で説明したのが、「友達を選びなさい」というアドバイスということになります。
もう少し具体的に言えば、他人との適切な距離間を保てる人を友人として選んだ方がよいでしょう。経済的に豊かになりたければ、プライベートに過度に干渉する人、お金の貸し借りにルーズな人、親切を押し売りする人(結局は見返りを求めている)、過剰に精神論を振りかざす人とは距離を置くことをお勧めします。