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目の前の1万円と、来年もらえるかもしれない10万円

経済評論家加谷 珪一

あなたは、今、目の前にある1万円と、来年、獲得できるかもしれない10万円のどちらを選ぶでしょうか。「もちろん目の前の1万円だ」という人もいるでしょうし、「将来の10万円の方が大事だ」と考える人もいるでしょう。ひとくちに将来の10万円といっても「実現可能性によって違うよ」という意見もあると思います。

この命題に対する完璧な正解は存在しませんが、将来、お金を獲得できる可能性に大きく左右されるのは間違いないでしょう。1年待てば100%の確率で10万円が手に入るのであれば、現時点でお金に困っている人を除けば、多くの人が来年の10万円を選択すると思います。

しかしながら、来年、10万円を獲得できる確率が80%だったらどうでしょうか。やはり1年待つ人が多いかもしれませんが、60%を切ってくるあたりから意見が分かれてくるのではないでしょうか。さらに確率が下がって10%以下になってしまえば、ほとんどの人が目の前の1万円を選択すると思います。

現時点のお金の価値と、将来のお金の価値という対比は、金融工学の世界では重要な基礎理論のひとつになっているほか、資本主義の根本的な価値観とも深く結びついています。今の1万円か、来年の10万円かという話は、実は、お金の教養における最たるものといっても過言ではありません。

この命題が大事なのは、現実社会においてもこの問題で悩むことが多く、どちらを選択したのかで、その後の人生が大きく変わるからです。例えば投資を例にとって考えてみましょう。

投資を始めるには、まずは資金が必要となります。今、1万円を用意して投資をすれば、将来、株価が上昇して10万円になるかもしれませんが、その会社が倒産してゼロ円になるかもしれません。新しい事業も同じで、多額の初期投資が必要ですが、もし事業がうまくいけば、将来、何千万円もの利益が得られる一方、失敗してゼロになる可能性もあります。

たいていの場合、将来得られる金額の大きさは、抱えているリスク(つまり実際にお金がもらえる確率)に比例します。将来1億円が獲得できるかもしれない、という大きな話の場合には、実際にお金を得られる確率は数%など、非常に低い値となります。一方、1000円がもらえるかもしれないという小さな話の場合には、高い確率になっていることがほとんどです。

※写真はイメージです。

この話は、投資でいうところのリスクとリターンの話とまったく同じと考えてよいでしょう。

リスクが高い(つまりお金が獲得できるかどうか分からない=不確実性が高い)案件のリターンは大きく、リスクが低い(高い確率でそのお金を獲得できる)案件のリターンは低くなります。つまり、リスクというのは金融工学的には「危険なこと」という意味ではなく、「不確実性=確率」のことを指しているのです。

この命題には一意的に得られる正解は存在しません。どちらを選択するのかは、その人の基本的な価値観に由来しており、その人の生き方が反映されてしまうのです。

将来の不確実性が高い案件というのは、得られる金額が大きい代わりに、うまくいく確率は非常に低いという特徴がありますが、その最たるものは革新的なベンチャービジネスでしょう。100社に1社も成功しないという低い確率ですが、もし成功すれば、巨額の富と、社会を変革したという名声が得られます。

しかしながら、普通に考えれば、巨万の富が得られるかもしれないが、確率がゼロに近いベンチャービジネスと、仕事さえすれば、ほぼ100%の確率で何十万円、何百万円というお給料が得られる普通の会社員を比較すれば、ほとんどの人が後者を選択するはずです。

では、なぜ、わざわざ失敗する確率が高い革新的なビジネスを選択する人が一定数存在しているのでしょうか。その理由は使命感だと言われています。

起業家はアントレプレナーシップという独特の使命感やマインドを持っており、そのマインドに突き動かされ、単純な損得勘定を超えて革新的な事業に取り組んでしまいます。つまり革新的なビジネスというのは経済合理性とは正反対の行為なのです。
お金の世界はすべて冷徹で合理主義的だと思っている人が多いと思いますが、実はそうではありません。お金の世界の一部はこうした感受性が支配しており、そして、このような非合理的な価値観こそが資本主義を発達させたとも言われています。

このコラムでも以前、取り上げたことがありますが、ドイツの社会学者であるマックス・ヴェーバーは、著書『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』において、金銭欲など世俗的な欲求に寛容な地域(カトリック圏など)では資本主義が発達せず、むしろプロテスタントの影響が強く、禁欲的な風潮が強い地域(オランダや米国)で資本主義が発達しやすいと主張しました。つまり使命感こそが資本主義を発達させる原動力になっているということです。

ヴェーバーの説については、学術的なレベルでは多くの反論が存在しますが、資本主義の成り立ちを示す一般論としては、今でも強烈な説得力を持っています。

冒頭で紹介した、今の1万円と来年の10万円の比較は、金融工学的には現在価値という用語で表現されますが(来年10万円でも、確率が10分の1ならその現在価値は1万円しかないと考えます)、一般人と成功する起業家では使命感が異なるため、結果としてお金の現在価値覚も違っているわけです。そして、この現在価値の違いこそが富の源泉になっています。

この話を私たちの生活にあてはめれば、(夢ばかり追うのはいけませんが)どちらかというと、今よりも将来を向いている人の方が、大きなお金を獲得しやすいということになるでしょう。今の1万円も大事ですが、わずかでも将来に力点を置くことで、お金をめぐる環境は大きく変わってくるのです。

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