
「金」への投資にはどんな意味があるの?
このところ金価格が上昇しています。金は究極の安全資産ともいわれており、経済の先行き不安から金への投資に興味を持つ人も少なくありません。金は魅力的な存在ではありますが、一方で、金への投資には他の投資にはないデメリットもありますから注意が必要です。
金が持つ三つの異なる「顔」
実は「金」には三つの顔があります。ひとつは宝飾品としての顔、もうひとつは工業製品の原材料としての顔、そして最後が投資対象としての顔です。
多くの人は、宝飾品として金を意識するケースが多いと思いますが、実際、その通りで、金の需要の大半は宝飾品です。一方で、工業用にも金が使われており、わたしたちが普段使っている家電製品を製造するには多くの金を必要とします。
近年では資源をムダにしないという観点から、廃棄された家電製品から金を回収するという試みも行われており、こうした貴金属の回収については、鉱山に見立てて「都市鉱山」などと呼ぶことがあります。
宝飾品には常に一定の需要がありますし、工業用途の需要についても、大きく変動するわけではありません。そうなってくると金の価格を決める最大の用途は、投資目的の購入ということになるでしょう。
金全体の需要のうち、約3分の1が投資もしくは資産を保全する目的での購入です。金を購入して資産を保全したいと考える人が増えると金価格が上昇し、そのような人が減ると金価格は下落する仕組みです。
では、このところ金の価格が上昇しているのはどうしてなのでしょうか。
金には、人を惑わす魅力があるせいか、金価格の推移についても、様々な解釈や噂(うわさ)が存在しますが、現実に金の価格を決定する要因はとてもシンプルです。金の価格はほぼすべて米ドルとの関係で説明することができます。
金の価格を長期的に分析すると、ドルの価格が下落すると金価格が上昇し、ドルの価格が上昇すると金の価格が下落するという明確な関係が観察されます。つまりドルと金は常に表裏一体の関係になっているのです。
この理屈で考えれば、金価格が上昇した理由ははっきりしています。
米国の経済は今のところ順調ですが、リーマンショック以降、10年近くも好景気が続いており、そろそろ景気が後退するのではないかと多くの人が考え始めています。そうしたところに米中貿易戦争が激化するというニュースが飛び込んできました。
米中貿易戦争は、当初は米国への輸出が多い中国が大きな打撃を受けましたが、長期化すれば米国も無傷ではいられません。このまま貿易戦争が解決しなければ、米国の景気が悪くなると考える人が増え、市場ではドルが売られるようになってきました。
投資家は売ったドルを何かに換えて資産を保全しなければなりません。
一般的にはドルと並ぶ世界の主要通貨であるユーロを買うということになりますが、一部の資金は金に向かいます。この動きが顕著になってきたことで金価格が上昇しているわけです。このところ為替市場では円高が進んでいますが、これも、ドルを売った投資家の一部が、円を購入していることが原因です。すべては米国経済の先行きに関係した動きと考えてよいでしょう。

資産家が「金」を保有する理由
資産家は非常事態に備えて、資産の一定割合を金で保有しているという話を聞いたことがあると思いますが、これも同じ理屈で考えることができます。
平時の状態であれば、世界でもっとも安全な資産はドルであることは説明するまでもありません。実際、世界の富豪の多くが、自らの資産をドルベースで保有しています。しかし、戦争や大恐慌といった非常事態が発生した時には、基軸通貨であるドルすら不安視されることになります。こうした時には金が買われやすくなりますから、お金に余裕のある資産家は常に一定割合の金を保有して、非常事態に備えているのです。
もし米ドルが不安視されるような状況に世界経済が陥った場合には、弱小通貨である円はもっと大変なことになる可能性が高いでしょう。日本国内でも、一部の人が、こうした事態に備えて金を買っていると考えられます。
しかしながら、金への投資にはデメリットもあるので注意が必要です。
金は基本的に配当や利子など、お金を生み出しませんから、持っているだけで価値が増えることはありません。しかも実物で保有する場合には、保管にコストがかかりますし、盗難のリスクもあります。富裕層の場合には、これらのコストを払っても資産を保全するメリットがありますが、それほど多額の資産を持っていない人にとっては、一連のコストはかなりの負担です。
一部の人は日本経済の先行きに不安を感じて金を持っているようですが、日本経済への不安ということであれば、金ではなくドルやユーロを保有した方が合理的です(実際、通貨の価値が下落しているトルコやロシア、アルゼンチンなどでは多くの人が資産をドルで保有しています)。
金というのは、ドルやユーロでも対処できない危機を想定した投資ということになりますから、確率的にはほとんどゼロに近いリスクと考えられます。金への投資を検討する際には、こうしたバランスを考えた上で、投資金額を決めるのがよいでしょう。