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トイレットペーパーの買い占めとお金に対する感性

経済評論家加谷 珪一

コロナウイルスの感染が拡大したことで、国内では一時期、マスクが不足するという事態になりました。品不足はマスクにとどまらず、トイレットペーパーなど日用品にまで波及し、一部ではスーパーの棚から商品がなくなってしまいました。

年配の読者の方なら記憶に残っていると思いますが、消費者がパニックを起こしてトイレットペーパーを買い占めるという出来事は、オイルショックが起こった1973年にも発生しています。マスクは中国で生産されているものが多いですから、中国で感染が拡大し生産が停止したり、日中間の物流が停滞したりすると、マスクが入荷できないという事態が発生します。マスクの買い占めは良くないことではありますが、そうなってしまう理由も分からないではありません。

ところが、トイレットペーパーのほとんどは国内で製造されているので、日本の経済がマヒしない限りは、必要な量は供給されます。オイルショックの時も同じで、あくまで原油の価格が上がっただけですから、トイレットペーパーがなくなるわけではありませんでした。それにもかかわらず、店舗には消費者が殺到し、あっという間に商品がなくなってしまいました。

もっとも、すべての店がそうなっていたのではなく、報道されたのは、かなり特殊なケースだった可能性もあります。

筆者はオイルショックが発生した当時4歳でしたので、品不足に関する明確な記憶はありません。しかし生前、母が筆者に語っていたところによると、少なくとも筆者の家の周囲ではパニックを起こした人はほとんどおらず、お店にも商品が残っており、トイレットペーパーを求めてお店をハシゴするといったことはなかったそうです。筆者の妻も同じようなことを言っていましたから、やはりパニックを起こした人は少数だったのかもしれません。

しかしながら、今回「トイレットペーパーがなくなる」と言ってお店をハシゴした人を、単純に「無知」であると批判することもできません。なぜなら、製品の生産体制というのはすぐに変更できるものではないからです。

※写真はイメージです。

通常、製品というものは、多くの人が日常的に購入する分だけしか生産されません。それ以上生産してしまうと、在庫を倉庫に保管する必要があるため、余分にコストがかかるからです。日本には約6000万の世帯数がありますが、各世帯が、1週間に1本、トイレットペーパーを使うと仮定すると、1週間あたり6000万本の生産が行われます。

ところが全世帯が1週間に1本ではなく2本買っただけで、必要な量が2倍になります。しかし、工場は6000万本の生産を基準に設計されていますから、すぐに増産することは不可能です。製造ラインを増設するためには、時間がかかりますし、2交代制を3交代制にする場合でも、労働者を確保しなければなりません。

深夜労働を行えば余分に賃金を払う必要があるので、実は増産すると採算が悪化します。しかしこうした非常時に値上げをすると確実に批判されますから、メーカーは値上げもできません。そうなってくると工場側には増産するメリットがあまりないという状況になってしまうのです。

各社はそれでも増産を行い、やがて供給量が増え、品不足は解消されることになりますが、すぐには大量供給されないというのが現実でしょう。

では、こうした事態を避けるにはどうすればよいのでしょうか。

先ほども説明したように、消費者が1個余分に買うだけで、品不足は発生してしまいます。これを防ぐためには、常にある程度の数を各世帯で確保しておき、非常時になっても皆が余分に買わないように心がければ、基本的に品不足は発生しません。

非常時にはどうしても不安心理が台頭しますから、全員に冷静になれといっても、なかなか難しいでしょう。冷静になるべきだと主張している人も、自分に被害が及ぶと、やはりパニックを起こすものです。

大事なことは、人間というのは、誰もが弱い存在であることを自覚し、常日頃から備えておくことです。というよりも、こうした日頃の準備をしておくこと以外に、パニックを防ぐ根本的な策はありません。筆者は長く企業を経営した経験があり、非常事態も何度か経験していますが、パニックを起こす人をバカにしたり、自分は絶対に大丈夫だと主張したりする人ほど、本当の非常時には見苦しい姿を周囲にさらしているものです(実際にそうしたケースを何度も見てきました)。

この話はすべて、お金の管理や資産運用の話とつながってきます。何が起こるのか事前に予想し、可能な限り、それに対処できる方法を考えておくというのは、経済的な危機管理の基本といってよいでしょう。これが出来ている人は、損失が最小限で済みますから、長期的に見ると、資産運用でもよい結果を残すことができますし、お金の面で苦労することも少なくなります。

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