
お金で安心は買えるのか?
多くの人は、お金が欲しいと考えていますが、そもそも人はなぜお金を欲しがるのでしょうか。人によっては、ぜいたくにお金を使っていろいろなことを楽しみたいと考えているかもしれませんが、実は、派手に散財することを強く望む人はそれほど多くありません。
実際、お金持ちと呼ばれる人の一部は、絵に描いたようなお金の使い方をしていますが、全体からすると少数派といってよいでしょう。世界でもっともお金持ちの部類に入る、著名投資家のウォーレン・バフェット氏が、若い時に買った古い家に住み続け、安いボロ車に乗っていたのは有名な話です。
多くの人は、派手に支出したいわけではなく、イザという時に安心したい、余計な心配をせずに暮らしたいといった理由でもっとお金が欲しいと考えているはずです。つまり安心を買うために、一定以上のお金が必要という理屈です。
お金には、安心を得る、不幸を減らすという効果があり、こうしたことにお金をうまく使えれば、精神的な満足感を得られます。例えば、一定以上のまとまったお金があれば、しばらくの間、働かなくても当面の生活を心配する必要はありません。
誰でも仕事がイヤになり会社を辞めようと考えたことがあると思いますが、実際に仕事を辞めるのかはともかくとして、いつ辞めても当面の生活には困らないという余裕があれば、精神的にかなりラクであることは間違いないでしょう。
ある程度の年齢になれば、親が病気になったり、介護が必要になったりすることもあります。健康の問題をすべてお金で解決することはできませんが、こうした事態が発生した時に、お金に余裕があると慌てずに事態に対処できます。
筆者はこうしたお金の使い方は、もっとも有益だと思いますし、こうした理由で経済的に豊かになることを目指すのは、とてもよいことだと思います。一方で、世の中にはお金を毛嫌いする風潮もあり、経済的に豊かになることを敵視する人も少なくありません。

以前もこのコラムで言及したことがありますが、お金のことを毛嫌いしている人は、実はお金に対する執着心が非常に強いのかもしれません。つまり、お金というものに、安心を買うこと以上の効果を求めている可能性が否定できないのです。
当たり前のことですが、お金で直接的に幸福を買うことはできません。お金のことが嫌いという人は、実は本心ではお金に強い執着を持っているかもしれませんから、自身についてよく振り返った方がよいでしょう。
それはともかく、お金がないと人は安心できないのかというと決してそうではありません。先ほど、嫌な仕事に直面しても、お金があれば、精神的に追い詰められないという話をしましたが、実は同じ効果を得るための手段はお金以外にもたくさんあります。
仕事で十分なキャリアがあり、ネットワークが広い人であれば、いつでも転職できるという安心感を持つことができます。確かにたくさんのお金はないかもしれませんが、いつでも転職できるという安心感には、一定のお金を持っていることと同じ効果が期待できます。
介護や病気についても、関連分野について豊富な知識を持っていたり、公的な支援制度についての情報があったりすれば、やはり慌てずに済みます。直接的にお金で解決できるわけではありませんが、物事について豊富な知識や情報があることは、お金と同じくらいの効果をもたらしてくれることでしょう。
友人、知人との関係も重要です。イザという時に頼れる友人がいる人といない人とでは、やはり生活を送る上での安心感は大きく異なります。
お金というのは、安心を買うことができる便利な存在ですが、一方、安心というのはお金がなければ得られないというものではありません。仕事を通じて得たノウハウや、豊かな人間関係などを持っていれば、ちょっとやそっとのお金よりもはるかに大きな安心感を得ることができます。
広い意味では、こうした知識や知恵、ネットワークも資産ということになりますから、一種のお金と考えることが可能でしょう。企業も同じで、お金に換えられる一般的な資産に加えて、目には見えない無形資産の存在が経営を左右するカギとなります。
せっかくお金持ちの家に生まれたのに、不安ばかりで幸せな生活を送れない人がいますが、こうした人には決定的に無形資産が不足しています。何百億もお金があれば話は別でしょうが、多少、お金があるという程度では、それだけで問題を解決することはできず、結果的に安心感を得られないのです。
経済的に豊かになり、お金と直結する資産を持つことは重要ですが、それと同じくらい、目に見えない資産を形成することも大事なことなのです。