
どの銘柄に投資すればよいのか分からないという悩みは実は存在しない
将来もらえる年金がアテにならないことから、投資による資産形成について真剣に検討する人が増えています。しかしながら、多くの人にとって投資は難しいものというイメージがあり、なかなか前に踏み出せないようです。初心者にとって特にハードルが高いのは、やはり銘柄選びでしょう。
むしろ投資に値する銘柄が少ないというのが本当の悩み
「どの銘柄に投資してよいのか分からない」というのは、多くの投資初心者が抱える悩みですが、20年以上にわたって株式投資による資産形成を行ってきた筆者に言わせると、現実はその逆です。投資に値する銘柄があまりにも少なく、特定の銘柄にお金が集中してしまうことが最大の悩みです。
ひとくちに株式投資といっても、いろいろなスタイルがありますが、老後のための資産形成として投資を行うのであれば、長期的なスタンスで残高を積み上げていく方式がベストです。長期投資であればリスクが小さくなるわけではありませんが、一定金額を継続的に投資することで、株価の上限変動による影響を緩和できます。
「億り人(1億円以上の資産を得た人)」などとメディアで派手に紹介される投資家の中には、短期売買の繰り返しによって一気に高額資産を得た人もいますが、こうした人たちはあくまでも例外です。筆者も含めて、凡庸な一般人は長期でコツコツと投資残高を積み上げるのがよいでしょう。
長期的にコツコツと投資することを前提にした場合、投資できる銘柄は限られてきます。せっかくお金を投じてもその会社がつぶれてしまっては元も子もないですから、20年後も30年後も事業を継続できる会社を選択しなければなりません。
そうなってくると、浮き沈みの激しいベンチャー企業は選択肢から外れてしまいます。今は順調に経営ができていても、今後、廃れていく可能性の高い製品や技術を手がけている企業も避けた方がよいでしょう。
20年、30年という長い期間には、リーマンショックのような出来事もあるでしょうし、不景気がさらに悪化する時期があるかもしれません。こうした事態に耐えられる企業ということになると、財務体質が健全で、一定以上の規模があるところに限定されてきます。結果的には、成長分野でビジネスをしている超優良企業しか投資対象に入らなくなるというのが現実なのです。

日本国内で大手といっても……
条件はそれだけではありません。一般に優良企業の株価は安定しており、景気がよい時でも、勢いよく上昇するわけではありません。そのような中で、投資から得られるリターンを大きくするためには、配当の金額にも気を配る必要があります。株価と比較してできるだけ配当が高い企業を選択した方が有利です。
整理すると、長期にわたって成長する業界に属していて、かつ企業規模が大きく、財務体質が良好で、高配当の企業に投資するということになりますが、実はこの条件を満たす企業というのは驚くほど希少です。
ネット証券の多くが、様々な条件で企業をスクリーニングする機能を提供していますが、もし口座を持っているのであれば、各種の条件を入力して銘柄を探してみてください。ごく限られた企業しか残らないことがお分かりいただけると思います。もし投資に成功して資産額が大きくなってくると、特定の銘柄に資金が集中していることは大きなリスク要因となってしまいます。
「どの銘柄を選べばよいのか分からない」ということよりも「投資できる銘柄がない」ということの方が実は極めて大きな問題なのです。
日本の場合にはさらにやっかいな問題があります。初心者が長期投資を行う場合には、成長分野で活動する大規模な優良企業に投資する必要があると述べましたが、この条件を満たす日本企業は極めて少数です。日本の中では大企業と思われている企業でも、グローバル市場では中堅企業に過ぎないというところがたくさんあるからです。
経済活動のグローバル化は年々進んでいますから、日本企業の多くは海外企業と戦わなければなりません。優良企業だと思って投資したところ、実は諸外国の超優良企業に翻弄(ほんろう)される小さな企業だったという話が十分にあり得るのです。外国企業ということになると心理的なハードルが上がる人が多いのですが、もし本気で株式による資産形成を考えているのなら、日本企業にだけ投資をするのは危険です。
世界的なレベルに先ほどの条件をあてはめれば、投資できる会社数は増えますが、それでも、無数の企業から選び放題ということにはなりません。安定的な投資を目指すのであれば、やはり投資できる会社は限られてきます。
こうした理由から、日経平均やダウ平均など指数に連動するETF(上場投資信託)に投資先を限定する人もいます。ETFの手数料は安いですが、投資信託であることに変わりありませんから、手数料分だけリターンが減少することを覚悟しなければなりません。長期になればなるほど手数料のマイナスは大きくなっていきますから、なかなか判断が難しいところですが、銘柄で悩むのが嫌であれば、こうした商品に限定するというのもひとつの方法でしょう。