
住宅ローンは繰り上げ返済しない方がよい理由
住宅ローンの商品にはたいてい、繰り上げ返済の制度があります。一部の専門家はお金に余裕がある場合には繰り上げ返済を積極的にした方がよいと勧めていますが、繰り上げ返済というのは果たしてトクなのでしょうか。
繰り上げ返済がトクか損かについて理解するためには、そもそも住宅ローンという商品がどのような性質を持っているのかについて知っておく必要があります。ローンという商品の本質が分かれば、早期に返済することの意味もハッキリしてくるでしょう。
多くの人は、お金がないので住宅ローンを組んでいると思います。実際、その通りであり、まとまったお金がないので住宅ローンを利用しているのは事実です。しかしながら、ローンという商品が持つ本当の意味は少し違います。
誰かからお金を借りた場合、本来であれば、すみやかに返済しなければなりません。すぐに返さないと、貸してくれた相手はそのお金をいつまでも使うことができないからです。ローンという商品は、この考え方をビジネスに応用したものと言い換えることができます。
ローンの借り手は、金利という対価を貸し手に支払うことで、借りたお金を返済する時間的猶予を得ます。つまりローンというのはお金を借りると同時に、対価を払って時間を買う商品でもあるのです。そうなってくるとローンを組む目的というのは、後で不動産を買うよりも、今、不動産を買った方が有利なので、金利という対価を払って、全額支払う時期を後にズラす、ということでもあるのです。
ローンという商品について、お金がないので、金利という余分な対価を払ってお金を借りたと解釈するのと、金利という対価を払って時間を買ったと解釈するのとでは大きな違いです。

よくお金持ちの人が、借金をうまく活用すべきだと主張していますが、その理由は金利には「時間を買う」という性質があるからです。お金がないので、高いコストを払ってお金を調達するのではなく、今がチャンスという時に資金を一気に投入するためローンを有効活用するという考え方です。
つまり、時間を稼ぐために住宅ローンを利用したというニュアンスが強ければ強いほど、住宅ローンをうまく利用できていることになります。逆にお金がないという理由だけで住宅ローンに頼っていると、それはかなり不利なゲームになるといってよいでしょう。
事業におけるチャンスというのは分かりやすいですが、住宅におけるチャンスというのは何を意味するでしょうか。
自己居住用とはいえ、不動産ですかられっきとした投資ということになります。投資において成功と失敗を分けるのは、やはり投資によって利益を得られたかどうかでしょう。
このタイミングでしかこの物件は買えない、という時期に家を購入でき、その購入価格が賃貸で通した場合と比較して圧倒的に安く済んでいるのであれば、その投資は成功ということになります。そのために住宅ローンを使ったのであれば、それはとても健全な使い方といってよいでしょう。
一方、どうしても家が欲しいので、高い金利を払って無理に高額な家を買ったというケースはやはり勝ちのゲームとはいえません。これは欲しいものを買うために、金利というコストを余分に払っていますから、支出過大ということになります。
もし適切に住宅ローンを利用できているのであれば、予定通り返済を続けてもまったく問題ありませんし、むしろ家計に余裕が出て、繰り上げ返済する原資が生まれたのであれば、それを投資などに回してお金を増やした方が圧倒的に有利です。
一方、無理な住宅ローンを組んでいる場合、ローンの返済から解放されることが最優先になるので、繰り上げ返済を行ってわずかな金利を節約する結果となります。
つまり資産価値の落ちない物件をよいタイミングで購入でき、しかも無理のない返済計画を立てた人であれば、住宅ローンの繰り上げ返済を積極的に行う理由はありません。
無理な住宅ローンを組んでしまったケースや、変動金利でローンを組んでおり、金利の長期的な上昇が見込まれるといったケースでもない限り、基本的に繰り上げ返済はしない方がよいでしょう。