
良い借金と悪い借金
世の中では借金は良くないこととされています。一方で、賢い人は上手に借金を利用しているという話もあります。要するに「良い借金」と「悪い借金」があるという話なのですが、これは本当なのでしょうか。
借金に良い面と悪い面があるのは事実です。したがって借金のすべてが悪いわけではなく、良い借金をしていれば、むしろ経済的にはプラスになるといってよいでしょう。では悪い借金というのはどのような借金なのでしょうか。実はこの話は、何にお金を使うのかというテーマと密接に関係しています。
お金の使い方には二つの種類があります。ひとつは日々の生活を成り立たせるための支出で、もうひとつは将来、お金を生み出すための支出です。前者のお金の使い方は経済学的に言うと「消費」、後者のお金の使い方は「投資」と呼ばれます。
消費の中には、最低限の食事や住まいなど、生活を続けていく上で必須の項目もありますが、一方でいわゆるぜいたく品と呼ばれるような楽しみを目的とした支出もあります。生涯にわたってお金に困らない生活を実現するためには、できるだけ消費(特にぜいたくな消費)の比率を下げ、投資の比率を上げていく必要があります。
経済的に豊かになった人は、ほぼ例外なく、支出を抑制して、捻出したお金を投資に回しています。ただ漫然とお金をためているだけでは十分ではなく、そのお金を積極的に増やしていく努力が必要となるのです。

ここで重要となってくるのが借金の扱いです。
消費というのは、生きている限りずっと必要な支出です。消費のために借金をしてしまうと、その後は消費支出に加えて、借金返済の支出が加わりますから、ますます状況が厳しくなります。つまり消費のために借金をすることは原則として御法度と考えてよいでしょう。
買い物をしすぎて、リボ払いを余儀なくされている人を時折、見かけますが、あまりよいことではありません。基本的に消費に関連した支出は稼いだ範囲に抑えるのが原則です。人によっては、冠婚葬祭などで急な出費が重なって借金する人もいますが、冠婚葬祭での出費も消費のひとつですから、やはり収入の範囲内にとどめなければ、生活が破綻してしまいます。
どうしても支出が増えるという人は、借金をするのではなく、副業などで収入をアップさせる方法を考える必要があるでしょう。副業は体力的にも厳しくなりますが、今後の人生設計を考えると、借金するよりも多くのメリットがあります。
これまで説明してきた話を整理すると、消費のための借金はよくないという結論になりますが、これを逆に考えれば消費を目的としない借金はアリということになります。具体的に言えば、将来お金を生み出すための支出、つまり投資のために借金をすることは、場合によっては許容されるということです。
もちろん投資であれば何でも借金してよいという話にはなりません。リスクの高い株式投資やFX(外国為替証拠金取引)を借金で行うことは絶対にやめてください。失敗した時には取り返しがつかなくなりますし、日本の法令では、こうした用途にお金を使った場合には、仮に自己破産しても免責(借金を帳消しにすること)が認められないことも多くなっています。
一般的な人の場合、唯一借金してもよい投資というのは、やはりマイホームということになるでしょう。
ここで重要なのは、マイホームの購入について「投資」と表現していることです。確かにマイホームには夢を実現する、お気に入りの家に住むといった消費の要素があります。しかし不動産は不動産ですから、賃貸ではなく購入する以上、それはれっきとした投資(つまりお金を生み出すための支出)であり、投資した以上は成功させなければなりません。
もし成功する確率が高い住宅取得であれば、迷わず住宅ローンという借金をしてもよいという結論になります。
では、何を実現すれば投資で成功したと言えるのでしょうか。投資というのは安く買って、高く売るのが原則です。住宅も同じで、買った時よりも資産価値が上がっていれば成功、下がっていれば失敗です。したがってマイホームを購入する時についても、自分が欲しい物件ではなく、価値が上がる物件を買わなければなりません。価値が上がる、もしくは価値が維持される物件というのは、皆が欲しがる物件ということですから、不動産には自分の夢を託してはいけないのです。
もっとも分かりやすく説明すれば、購入を予定している物件について、賃貸住宅として自分が借りたいのかを基準に判断すればよいでしょう。あなた自身が、高いお金を出してでも、その物件を借りたいと思えるのであれば、借り手はたくさん存在する可能性が高く、転売するのも簡単です。
一方、自分は積極的に借りたくはないが、何としてもマイホームが欲しいので妥協して購入するという物件には注意が必要です。こうした物件を借金で購入すれば、それは単なる消費のために借金したことと変わらなくなってしまいます。繰り返しになりますが、お金を生み出さないものに借金するのは基本的に御法度であり、それはマイホームであっても変わりません。