お金を呼ぶ教養塾

正確に間違うよりも、漠然と正しい人でありたい

経済評論家加谷 珪一

前回は著名な経済学者であるケインズの「アニマル・スピリット」という概念について解説しました。アニマル・スピリットは「野心」「気概」などと訳されますが、お金が欲しいといった単純な動機ではなく、何かを実現しようという野心、気概こそが、本当の意味でお金を引き寄せるとケインズは論じています。
ケインズは偉大な経済学者であり、その業績は比類なきものですが、ケインズを経済学者としてだけで捉えてしまうと、彼の本質を理解することはできません。ケインズには、物事の本質を見抜く驚異的な力があり、真の意味での教養人だからです。

自分ではなく他人の心理を理解せよ

ケインズはアニマル・スピリット以外にも多くの名言を残しています。もっとも有名なのは株式投資における「美人投票」のメカニズムでしょう。

ケインズは、株式投資というのは美人投票と同じだと自著で説明しています。美人投票でもイケメン投票でも同じですが、こうしたゲームで勝つためには、自分が美人(あるいはイケメン)と思う人に投票してはダメであり、多くの人が美人(あるいはイケメン)と思う人に投票しなければなりません。

いくら自分の価値観でこの人が美人だといっても、結果は投票で決まりますから、自分ではなく他の人がどう思うのかを知ることが重要です。

株式投資についてもまったく同じ事が言えます。自分がよいと思う銘柄を買ったからといって、その銘柄が上昇して儲(もう)かるとは限りません。株価が上昇するためには、多くの投資家がその株を買わなければなりません。つまり、自分ではなく、多くの他人がどの株が上がると考えているのかを予想する必要があります。

実際、株式市場では、大した業績を上げていない会社でも、話題性から株価が上昇するので、多くの投資家が関心を寄せ、さらに株価が上がっていくという現象が見られます。これが究極的な状況になるといわゆるバブルになってしまうわけですが、株式市場には、もともとそうした傾向が存在しているということをケインズは説明しているのです。

実はケインズ自身も個人投資家として積極的に株式投資を行っており、今の金額に換算すると、何と数十億円もの利益を得ています。一時はかなり損をしたこともあったそうですから、こうした投資経験が彼の英知の元になっており、結果的に偉大な学問業績につながったものと考えられます。

この話は、他人のことを理解できなければ、ビジネスや投資でよい成果をあげることはできないと言い換えることができるでしょう。自分のことばかり考えている人が、仕事でうまくいかないのは、ある意味で当然のことです。

※写真はイメージです。

人は各論の知識におぼれてしまう

ケインズはこのほかにも、「正確に間違うよりも、漠然と正しい人でありたい」という名言を残しています。世の中の仕組みや人々の心理について、大きな枠組みで理解できている人は、各論で小さな判断ミスをすることはあっても、全体的な方向性において致命的な間違いをすることはありません。

しかし、大きな枠組みを理解できず、各論の知識にばかり頼っている人は、全体の方向性というもっとも大事な部分において、致命的なミスをする可能性があります。知識偏重型の勉強をしている人にこのタイプが多いのですが、これは大変危険なことです。

数年ほど前、ネット通販のアマゾンが急成長し、株式市場でも成長銘柄として大きな話題となっていました。急成長企業には付きものですが、感情的な批判も多く寄せられ、「アマゾンの株価は高すぎて危険水準だ」「近い将来株価は100分の1になるだろう」といった意見がネットで飛び交っていました。

実際、筆者もアマゾンについて他人と議論したことがありますが、否定的な意見を持つ人が多かったように思います。そこで筆者はアマゾンについて否定的な意見を持つ人に、「今後、ネット通販は拡大すると思いますか、衰退すると思いますか」と聞くとほぼ全員が「拡大する」と答えました。

さらに、リアルな店舗を持つ百貨店やスーパーとアマゾンを比較して、「どちらの業態が今後成長すると思いますか」と聞くと、やはりアマゾンと答えます。つまり大きな枠組みではすでに答えは出ているのです。結果は説明するまでもなく、ネット通販市場は爆発的に拡大し、それに伴ってアマゾンの株価も急上昇しました。筆者が大きな利益を得たのは言うまでもありません。

今後、社会のIT化に伴ってネット通販ビジネスが急拡大するというのは、「大きな枠組み」の話です。一方、「アマゾンの株価は高すぎる」「アマゾンの急成長には歪(ゆが)みがある」という話は、「小さな枠組み」であり、各論ということになります。

下手に株式投資について知識があり、割高、割安といった各論におぼれてしまうと、これからはネット通販の時代になるという大きな流れが見えなくなってしまいます。ケインズが「正確に間違うよりも、漠然と正しい人でありたい」と述べているのはこういうことです。

これは投資に限らず、あらゆる分野において共通の法則といってよいでしょう。細かい各論におぼれてしまう人には、決して、大きなお金はやってきません。

お金を呼ぶ教養塾

お金について誰からアドバイスを受けるべきか

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金で幸せは買えない?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

リスクと年齢について

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

投資で7割の人が損するって本当?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

副業時代到来。経済的なピンチについてどう考えるか?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

目の前の1万円と、来年もらえるかもしれない10万円

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金で安心は買えるのか?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

良い借金と悪い借金

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

コロナ後、持ち家と賃貸はどう考えればよいのか?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

今の金価格はバブルなのか?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

知識と知恵のどちらが大事?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

住宅ローンは繰り上げ返済しない方がよい理由

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

日本人の資産額が相対的に減っている?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

トイレットペーパーの買い占めとお金に対する感性

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

日本でタンス預金が増えている理由

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金と仲良くなれる「歴史」の教養とは

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

「お願い力」の高い人が経済的にうまくいく理由

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

本当のお金持ちは、お金を持っていることを他人には見せびらかさない?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

これからはお金が要らない時代がやってくる?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

不安は「知る」ことで解消される

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

正確に間違うよりも、漠然と正しい人でありたい

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

肉食系でないと豊かになれないの?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金と仲良くなるには固定観念から自由になる必要がある

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

富は人から奪うもの?それとも創造するもの?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

物価の動きが分かれば、難しい理論など知らなくても経済を理解できる

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

前を向くか、後ろを向くか

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

子どもに対して積極的に投資教育をした方がよい?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

「金」への投資にはどんな意味があるの?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

人はいつ死ぬのか予想できない

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

フェイスブックの仮想通貨から考える、そもそもお金って何?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

どの銘柄に投資すればよいのか分からないという悩みは実は存在しない

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

今の支出を抑制すれば、自動的に老後の生活は安泰になる

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

ITに詳しくなくてもIT的な考え方だけは身につけた方がよい理由

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

帰納法と演繹法を駆使するとお金が寄ってくる

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

何でも無料で手に入る時代だからこそ、お金を持つことの意味を考えた方がよい

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金に関する正反対の話をどう捉えればよいのか?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

人は変われるのか?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

女性芸能人と企業経営者の交際に対して世間が冷たい理由

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

なぜお金持ちは「友人を選べ」と諭すのか?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

社会学を知れば、資産形成のヒントが得られる

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

世の中に「オイシイ話」は転がっているのか?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

他人へのプレゼントにはお金をかけた方がよい理由

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

豊かになりたければ「怒り」を否定してはいけない

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

会食にかかるお金についてどう考えるか

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

決断が速いことはなぜ重要なのか

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金のセンスをトレーニングするもっとも効率的な方法は?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金と見た目の関係

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

割り勘よりおごりの方がよい理由

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

ありがとうと言える人はお金持ちになれるという話は本当?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

高いモノは良いモノか?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

どんぶり勘定の方がお金持ちになりやすい?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金はお金のあるところに寄ってくるという話は本当?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金はまとまっていると意味がある

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

自分の一生と冷静に向き合ってみよう

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金持ちになれる趣味の持ち方とは

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金は天下の回り物

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

物事の是非と損得勘定をしっかり切り分ける

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

相関関係と因果関係

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

「そのうち」は永遠にやってこない

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

率と絶対値の違いをマスターする

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

「数字」はお金の教養そのもの

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

今現在、1年後、5年後、10年後を同時に考え、30年後は考えない

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

金利の意味を知ればお金が寄ってくる

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金持ちはお金持ちになってお金持ちになる

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

時間には値札が付いており、その値段は刻々と変わる

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金持ちほどお金を使わなくなる話のホント・ウソ

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

消費してよいお金とダメなお金の違い

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

学歴とお金は関係あるの?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

理解と共感の違いを理解できると、自身の経済力は飛躍的に高まる

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金を遠ざける思考回路、お教えします

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

経済的自由を得ることの意味

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金が貯まらないのは、承認欲求が強すぎるから

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

幸せはお金で買えるのか?

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

年収1000万円では「お金持ちの生活」を送れない

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金に縁のある「教養人」は、徹底して資産額を重視する

経済評論家加谷 珪一
  • 投資
お金を呼ぶ教養塾

お金に縁のある人は、常に相手の目線で物事を考える人

経済評論家加谷 珪一
  • 投資

あなたにおススメの記事

pagetop