
本当のお金持ちは、お金を持っていることを他人には見せびらかさない?
ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する「ZOZO」の創業者である前澤友作氏が、動画投稿サイト「ユーチューブ」で、1000億円の預金通帳を公開したことについて、落語家の立川志らくさんが批判するという出来事がありました。志らくさんは「本当の金持ちは(お金を持っていると)言わない」と述べていますが、本当のお金持ちは、お金を持っていることを隠すものなのでしょうか。
前澤氏は昨年、自身で立ち上げた「ZOZO」の持ち株を約1500億円で売却しました。彼には500億円ほどの借り入れがありましたから、これを返済し、手元には約1000億円が残りました。この金額が記帳された通帳をユーチューブで公開したわけです。
前澤氏は、経営者を引退すると同時に、ユーチューバーとしてデビューすると以前から宣言していました。1000億円記帳はユーチューバーとしての動画第1弾となり、2カ月で200万回を超える驚異的な再生回数を記録しています。
自身の預金通帳を公開した前澤氏に対しては、当然のことながら賛否両論が寄せられており、この話題をテレビのワイドショーが取り上げ、先ほどの志らくさんの発言につながりました。

志らくさんは「本当のお金持ちは」と述べていますが、前澤氏は、紛れもなく本当にお金を持っていますし、そもそも、お金持ちに本物も偽物もありません。おそらく志らくさんが言いたかったのは、品のあるお金持ちはお金を見せびらかさないという意味でしょう。
志らくさんは、お金があることを見せびらかさない品のあるお金持ちの例として、俳優の石原裕次郎さんをあげています。しかしながら、年配の読者の方ならピンと来るかと思いますが、裕次郎さんは、そうしたイメージとはまったく正反対の人生を歩んできた人物です。
裕次郎さんは、もともと裕福な家に生まれ、慶応大学に在学中から銀座で豪遊したり、湘南でヨットを乗り回したりする毎日でした。また無類の高級スポーツカー好きとして知られており、何台も高級外車を所有していたのはあまりにも有名です。中でも、ドアがカモメの羽のように開き、真っ赤なシートを持つド派手なベンツ300SLは、裕次郎さん生涯のお気に入りだったそうです。
裕次郎さんの場合、むしろこうした放蕩(ほうとう)っぷりが俳優としての魅力を形成しているという面がありましたから、上品どころか、むしろ、今の前澤さんの方がキャラクターとしては近いものがあるでしょう(雰囲気はまるで違いますが)。
豪快な人生の頂点に立つ裕次郎さんをなぜ、上品なお金持ちとして引き合いに出したのかはよく分かりませんが、裕次郎さんが亡くなってから30年以上経ちますから、もしかすると志らくさんにとっては、生前の裕次郎さんのイメージが薄かったのかもしれません。
それはともかくとして、前澤氏の言動は志らくさんの言うとおり、あまり上品とはいえませんが、ユーチューバーとしてのネタという面も多分にありますから、ムキになって彼を批判してもあまり意味はないでしょう。ユーチューバーやブロガーと呼ばれる人たちは、炎上することでかえってアクセスが増えるケースも多いですから、もしかするとすべてが計算済みなのかもしれません。
また、金額には幅がありますが、所得が高い人や資産をたくさん持っている人は、一般人と比較してお金をたくさん使うのは事実ですし、何らかの形でそれは周囲に伝わります。日本ではあまり活発ではありませんが、欧米各国では富裕層が多額の寄付を行うのは常識です。これも、ある意味ではお金を持っていることを周囲に伝える行為と見なすことができるでしょう。
ただ、前澤氏は自身の行為が批判されていることに対して「人に下品という前に、人のお金の使い方にケチつけることが一番下品だということに気づいて欲しい。もっとお金から解放されたらいいのに」とも発言しています。もしかすると前澤氏は、あえてお金を見せびらかすことで、お金には固執しない方がよいというメッセージを逆説的に伝えたいのかもしれません。
この発言には一理あり、お金のことを批判的に捉えている人ほど、実はお金が欲しくて欲しくてたまらないというケースはよくあります。たいていの成功者は、お金に固執しない方が、かえってお金が寄ってくると述べていますが、まさにこれはお金に関する真理といってよいものです。投資でもビジネスでも、チャンスが来た時には、躊躇せず、まとまったお金を投じてこそ大きな利益を得ることができます。
お金をあえて派手に見せびらかす前澤氏をわざわざ目指す必要はありませんが、お金と仲良くなりたいのであれば、前澤氏のような成金趣味も、さらっと受け流す余裕を持つことは大事でしょう。